世界の紛争と特徴
戦争から紛争へ
 21世紀の幕開けとなった2001年9月11日。アメリカで4機の旅客機がテロリストにハイジャックされアメリカの主要施設に特攻、米国同時多発テロが発生した。旅客機は2機がニューヨークの世界貿易センタービルに、1機がアメリカ国防総省に衝突。9.11と呼ばれる史上空前のテロは6000人の人命を奪い2万人の負傷者を出す惨事となった。アメリカ政府はこのテロ行為を戦争と位置づけ、世界のテロ支援国家に対して対テロ戦争を開始した。
 20世紀は戦争の世紀と呼ばれるほど戦争が多発した。二度の世界大戦を含む各地の戦争で犠牲者は大きく増加し、19世紀の戦争犠牲者の総計2千万人に対して20世紀は1億人を優に超えた。この数字を見てもその脅威が計り知れる。産業革命以降工業の発展は各国の兵器開発競争に繋がり、第一次世界大戦では戦車、航空機が戦場に登場。第二次世界大戦では多くの兵器が高性能化され、人類史上初めて核兵器が使用された。これら兵器の発展は戦争の期間を短期決戦へ変えていくと同時に戦場での死者を著しく増大させた。こうした大戦争は主に大国間で行われ、戦争の理由は主に領土拡大、資源確保、イデオロギーなどであった。これらの戦争では国家全体が兵力となり戦闘は地域を選ばず無差別に行われていった。その為戦略拠点である都市部に無差別な空爆や歩兵による市街戦などが行われ、一般市民の犠牲が膨らんだ。
第二次世界大戦では多くの民族が戦争に巻き込まれ、国家の分断や同一民族同士の殺し合い、民族浄化などが行われた。これらの問題は第二次世界大戦後、米ソという超大国を中心とした東西冷戦の中で押し潰され燻っていく。
 西側資本主義社会と東側共産主義社会の思想戦争が世界で頻発。中でも第二次世界大戦後の国家、民族自立の機運の中でアフリカや中南米の植民地が次々と独立を宣言すると、米ソ2つの大国はその国家をそれぞれの陣営に組み入れるための工作活動を行った。これらはクーデター勢力への武器援助や支配階級民族への優遇措置といった形で具現化し、代理戦争という形で多くの国の内戦を誘発した。1950年代には朝鮮半島で対立する共和派と共産勢力がそれぞれ米ソの支援を受けて殺し合う朝鮮戦争が勃発、1960年代には同様の形でベトナム戦争が行われた。
1980年代までに共産勢力は圧倒的な広がりを見せたが1990年代初頭にソ連が解体され、東側諸国に自由経済や民主化の気運が高まるとソ連傘下の国家が次々と独立。またソ連の支援を失った多くの共産、社会主義国家では反共、民主化の声が高まっていく。
 冷戦が終結しこの段階に至って世界は新たな戦争の形に直面しなければならなくなる。世界各地で吹き出した問題は第二次世界大戦やそれ以前に行われた戦争で形成された国家内に抱える民族、宗教、資源などの対立で大国間の争いの前に隠れていた問題であった。
特にソ連は多数の民族を抱えそれらを強制的に移住、入植させるなどした結果、宗教弾圧、民族差別などが頻発した。東ヨーロッパでも多民族の理想国家構想が崩れ去りユーゴスラビアを中心に周辺国で民族間の対立が激化した。1960年代以降独立が相次いだ中央アフリカ地域の黒人国家でも植民地時代に強制的に引かれた国境や混同された民族が不満を爆発させ、これに中国や西側企業などが資源を求める形で介入し内戦を激化させた。
 これらは第二次世界大戦以前に見られる「戦争」では無く特定地域での「紛争」と呼ばれる様になる。
戦争とは国家間で行われる直接的暴力の行使であり、紛争とは国家内部における民族、宗教対立における直接暴力の行使とされている。
これら紛争は第二次世界大戦以前に産み付けられた戦争の卵とも呼ばれ、原因の殆どは先進国、特に植民地を多く抱えていた西ヨーロッパ諸国にあるとされている。国際社会は1990年代以降この紛争に大きく関わっていく事になるが、その関与は先進国、人口を多く抱える発展途上国の経済、資源利権争いなども絡み対応は遅れに遅れた。
 また紛争の当事者である国家内でも民族、宗教対立を利用した政治的主導権争いや虐殺なども行われている。さらに大国の利益争奪戦はこれら紛争国家の民族を刺激し、特に中東、北アフリカ地域では石油資源の争奪戦から搾取される側のイスラム教徒が不満を持ち西側社会と対立。
彼らはテロリズムを武器に西側社会に武装闘争を挑み続けている。
 9.11同時多発テロや国際紛争は21世紀になっても止むことはなく、先進国を中心とした国際社会は自らが招いたとも言えるこれらテロと紛争問題に対してどう向き合っていくかを問われていると言える。

紛争の地域的特徴
ヨーロッパ
ヨーロッパは第二次世界大戦後東西冷戦の中心地とされた。19世紀後半から多くの国が分断、統合を行い、特に戦後の代表的な分断国家の東西ドイツを中心にNATO(北大西洋条約以降)とソ連(ワルシャワ条約機構)が対立した。ソビエト連邦崩壊後は東ヨーロッパを中心に統合された国家が独立を訴え、紛争が激化した。特にユーゴスラビアの崩壊により独立を果たした多くの東ヨーロッパ国家の多くが多民族国家で、一つの国家に6〜20の民族が糾合されている。各民族が自治、独立を求め中央政府と対立、内戦問題に発展している。旧ソ連所属の国家、ユーゴスラビア、コソボ、クロアチア、チェチェン、グルジア、ルーマニアなどが主な紛争問題地域で、特に少数民族の弾圧が激しい。また近年ではイスラム教勢力の拡大から該当地域でのテロなども発生している。この他にもイギリスとアイルランドの宗教問題を端にした対立や、スペインの民族問題などがあり、これらは民族差別による経済格差など長年に渡る民族の対立が支配国家に対する憎悪を生んでいる事が多い。

ヨーロッパの独立国
アイスランド共和国* キプロス共和国 チェコ共和国* ベルギー王国* リヒテンシュタイン公国
アイルランド共和国 ギリシャ共和国* デンマーク王国* ボスニア・ヘルツェゴビナ ルーマニア*
アルバニア共和国 クロアチア共和国* ドイツ連邦共和国 ポルトガル共和国* ルクセンブルク大公国*
アンドラ公国 サンマリノ共和国 ノルウェー王国* マケドニア共和国 ポーランド共和国*
イギリス(イングランド・北アイルランド・
ウェールズ・スコットランド)*
スイス連邦 バチカン市国 マルタ共和国 ロシア連邦
イタリア共和国* スウェーデン王国 ハンガリー共和国* モナコ公国 アルメニア共和国
ウクライナ スペイン* フィンランド共和国 モルドバ共和国 アゼルバイジャン共和国
エストニア共和国* スロバキア共和国* フランス共和国* モンテネグロ共和国 グルジア
オーストリア共和国 スロベニア共和国* ブルガリア共和国* ラトビア共和国*
オランダ王国* セルビア(旧ユーゴスラビア) ベラルーシ共和国 リトアニア共和国*

赤字はEU加盟国
*はNATO加盟国


事実上の独立国
コソボ共和国
沿ドニエストル共和国
アブハジア共和国
北キプロス・トルコ共和国
中東
イスラム教国が支配する中東諸国は豊富な石油資源を持つことで西側社会の支配と影響を多く受けてきた。1950年代に多くの国が独立を果たすものの、石油資源は西側企業いわゆるオイルメジャーが独占し、多くの民衆は貧困に喘いだ。これに対し中東及び産油国がOPEC(石油輸出機構)を形成し原油価格に対する主導権を持ったが、産油国は王族が支配するか軍事独裁政権国家が多く、実質的に独裁政治が行われている。
多民族国家が殆どの中東では国内の少数派への弾圧も行われている。また同一民族でも宗教、宗派の違いから差別や弾圧されることも多く、隣国から同一宗教組織や民族が武器などを支援し、不安定化工作活動を行うなどの側面も見せる。先進国の資源中心の場当たり的な外交に対して、貧困層がテロ思想を抱くことが多く、イスラム原理主義に根ざした多くのテロ組織が育つ温床となっている。人類最大の問題とも言える宗教問題が根深い地域だけに常に危機的状況をはらんでいる。
地政学的に考慮してもペルシャ湾岸、紅海、地中海などに面し、海運の要衝でもある事から、一度戦争、紛争が起こると他国の原油輸送にも影響が出る地域で、西側経済に大きな影響を与えている。
2010年頃からはアラブの夜明けと呼ばれる民主化、反政府運動がチュニジア、エジプト、リビア、シリアなどで発生し、この地域では長らく起こらなかった民主革命が次々と成功している。一方で国家の政情は90年代よりも不安定化しつつあり、予断を許さない。

中東の独立国
アフガニスタン* イラン シリア レバノン カザフスタン*
アラブ首長国連邦(UAE) オマーン トルコ アゼルバイジャン* キルギス*
イエメン カタール バーレーン アルメニア* タジキスタン*
イスラエル クウェート パレスチナ グルジア* トルクメニスタン*
イラク サウジアラビア ヨルダン ウズベキスタン*

*中央アジア、アジアに分類される場合もある国家。
アフリカ
現在世界一の不安定地域であるアフリカは、その殆どの国が何かしらの政治的、経済的不安を抱えており、植民地時代の負の遺産として国際社会の重要な課題となっている。アフリカの国家はその全てが多民族国家であり、かつての宗主国が国境線を定めた国家が殆どである。この為アフリカの国境線には直線的なものが多い。遊牧民が多かったアフリカの民族は宗主国の決めた国境により自由な移動を禁止され、結果として民族対立が発生した。植民地時代からの搾取と弾圧はそれぞれの国家独立後も多数派政権による少数派民族の弾圧という形で継続された。民族紛争が主な問題であるが、周辺国に弾圧される側の民族が形成する国家が多く、他国の軍事介入や内政干渉なども頻発している。近年ではイスラム教が浸透し宗教問題による虐殺や民族浄化なども行われている。混乱する内政を背景にリビア、スーダン、ソマリアなどはテロリストの拠点が置かれるなどテロ問題にも関わっている。豊富な資源を持つが自ら精製する能力を持たない国家が多く、西側社会の援助や企業進出によって情勢を回復しつつあるが、資源の乏しい国家は放置され貧困に苦しむ。世界最大の飢餓地帯でもある。近年では中国の資源を目的にした外交、国家支援や不安定化工作などが見られ、多数の虐殺も行われている。北アフリカ地域ではアラブの春に起因する民主化革命が起こっている。

アルジェリア リビア ギニア トーゴ マリ
エジプト 南スーダン ギニアビサウ ナイジェリア モーリタニア
スーダン ガーナ コートジボワール ニジェール リベリア
チュニジア カーボベルデ シエラレオネ ブルキナファソ ガボン
モロッコ ガンビア セネガル ベナン カメルーン
コンゴ共和国 コンゴ民主共和国 サントメ・プリンシペ 赤道ギニア チャド
中央アフリカ ブルンジ ルワンダ ウガンダ エチオピア
エリトリア ケニア ジブチ セーシェル ソマリア
タンザニア アンゴラ コモロ ザンビア ジンバブエ
スワジランド ナミビア ボツワナ マダガスカル マラウイ
南アフリカ共和国 モーリシャス モザンビーク レソト

その他の国家
セントヘレナ イギリス領
チャゴス諸島・ディエゴガルシア(イギリス領インド洋地域) イギリス領
マヨット フランス領
レユニオン・グロリオソ島(海外県) フランス領
カナリア諸島 スペイン領
セウタ(飛び地) スペイン領
メリリャ(飛び地) スペイン領

帰属紛争地
ソマリランド
西サハラ
南カメルーン
アジア・オセアニア
主に中国の南沙諸島、日本などに対する領土問題、アフガニスタンなどのイスラム教多民族国家の問題など民族問題が多い。インドとパキスタンという核保有国同士の対立も深刻な問題とされている。中央〜東南アジアは世界でも有数の多民族地帯である。また極東方面では朝鮮戦争以来の懸案である北朝鮮問題。とりわけ核開発問題が大きくなっている。アメリカのアフガニスタン介入以降大規模な紛争は起こっていないが紛争ではなく戦争の危険を孕んだ地帯といえる。中国ではウイグル、チベットなどの民族弾圧問題も大きくなりつつある他、スリランカやインドネシアでも民族、宗教問題が噴出している。民主化問題としてはミャンマーが大きな焦点となる。
アジアの独立国
日本 インドネシア共和国 ベトナム社会主義共和国 スリランカ民主社会主義共和国
モンゴル カンボジア王国 マレーシア ネパール連邦民主共和国
中華人民共和国 シンガポール共和国 ミャンマー連邦共和国 パキスタン・イスラム共和国
朝鮮民主主義人民共和国 タイ王国 ラオス人民民主共和国 バングラディシュ人民共和国
大韓民国 フィリピン共和国 東ティモール民主共和国 ブータン王国
中華民国** ブルネイ・ダルサラーム王国 インド共和国 モルディブ共和国
チベット自治区* トルクメニスタン共和国 チベット ナガノ
内モンゴル自治区*
ウイグル自治区*
香港特別行政区*
マカオ特別行政区*
*中国の自治区、行政区
**国連非承認

オセアニアの独立国
オーストラリア連邦 キリバス共和国 ソロモン諸島
ニュージーランド マーシャル諸島共和国 トンガ王国
クック諸島 ナウル共和国 ツバル
フィジー共和国 パプアニューギニア独立国 バヌアツ共和国
ミクロネシア連邦 パラオ共和国 サモア独立国

オセアニアの各国領土
アメリカ領サモア アメリカ領
ココス諸島 オーストラリア領
グアム アメリカ準州
パプア州・西パプア州 インドネシア州
北マリアナ諸島 アメリカ自治州
ニューカレドニア フランス領
ノーフォーク島 オーストラリア領
ニウエ ニュージーランドと自由連合
フランス領ポリネシア フランス領
ピトケアン諸島 イギリス領
トケラウ諸島 ニュージーランド領
ハワイ州 アメリカ合衆国
ウォリス・フツナ フランス領
ウェーク島 アメリカ領有
ジョンストン環礁 アメリカ領有
ミッドウェー環礁 アメリカ領有
北アメリカ・中米・カリブ(西インド諸島)
主にアメリカの裏庭と呼ばれる中南米地域での民族問題、経済問題などが主な紛争原因で、アメリカ合衆国の影響下にある国家が殆どを占める。アメリカから進出した中大企業の搾取による貧富の差や政治の腐敗による貧民層の不満がゲリラ組織などを煽りコロンビア、ペルーなどで被害を大きくしている。冷戦下にソ連の支援を受けた国や反米感情の根強い国家も多い。また社会主義国家キューバの問題は依然アメリカの中で大きな懸案事項になっている。赤道周辺地域では、大量の麻薬が生産されており、それらの多くはアメリカ、ヨーロッパで流通している。この麻薬は一部で共産ゲリラなどの資金源にもなっており、中南米に多数存在するマフィアグループとも関連し、麻薬戦争などと揶揄されている。メキシコでも同様の麻薬問題、民族問題が存在する。

北中米カリブの独立国
アメリカ合衆国 ホンジュラス バハマ セントクリストファー・ネイビス セントビンセント・グレナディーン
カナダ エルサルバドル キューバ アンティグア・バーブーダ グレナダ
メキシコ ニカラグア ジャマイカ ドミニカ国 トリニダード・トバゴ共和国
グアテマラ コスタリカ ハイチ セントルシア
ベリーズ パナマ ドミニカ共和国 バルバドス
北中米カリブの領土
タークス・カイコス諸島 イギリス領
ケイマン諸島 イギリス領
プエルトリコ アメリカ連邦自治州
イギリス領ヴァージン諸島 イギリス領
アメリカ領ヴァージン諸島 アメリカ領
アンギラ イギリス領
フランス領アンティル フランス領
シント・マールテン島、セントマーチン島南部他 オランダ領
モントセラト イギリス領
ラスアベス諸島、ロスロケス諸島他 ベネズエラ連邦保護領
ボネール島、キュラソー島 オランダ領
アルバ オランダ自治領
バミューダ イギリス領
コーン諸島 ニカラグア領
スワン諸島、ベイ諸島 ホンジュラス領

南米
南米は途上国、貧困国が多く、多くの国では麻薬が生産されており、それらの多くはアメリカ、ヨーロッパで流通している。古くはアルゼンチンとイギリスの領土紛争がフォークランド諸島で発生している。中南米同様に麻薬が共産、反政府ゲリラなどの資金源にもなっている。コロンビアの麻薬戦争、ペルーの民族問題、ベネズエラの反米政策などが周辺国に影響を与えている。

南米の独立国
アルゼンチン
ウルグアイ
エクアドル
ガイアナ
コロンビア
スリナム
チリ
パラグアイ
ブラジル
ペルー
ベネズエラ
ボリビア

その他の国家
フォークランド諸島 イギリス領
サウスジョージア・サンドウィッチ諸島 イギリス領
ギアナ フランス領