湾岸戦争(GULF WAR) 湾岸戦争は1990年8月2日にイラク軍のクウェート侵攻により勃発した。イラクがクウェートに軍隊を派遣した背景には20世紀以降の中東情勢に新たに加わったオイルマネーの問題が大きく関与している。元来イラク南部に位置しペルシャ湾に面するクウェートとイラクは領土問題を抱えていた。イラン・イラク戦争においてクウェートはペルシャ人の中東支配を懸念しイラクを支持したが、戦傷終了後に国家的経済危機を迎え貧困状態になったイラクは少数国家であり潤沢な油田を持つクウェートに白羽の矢を立てる事になる。1990年7月、イラク大統領サダムフセインは中東諸国で定めた原油割り当てを無視してイラクに損害を与えたとアラブ首長国連邦及びクウェートを非難、さらにクエートの油田はイラク領内の地底油田にパイプラインが到達しておりそれによって不法採掘が行われている事を主張した。イラクのアジズ副首相はクウェートに対して24億ドルの損害賠償をクウェートに請求、エジプトのムバラク大統領が仲介に立つが間もなく交渉は決裂した。 ■イラク・クウェートの国歌比較
イラクは1961年にクウェートがイギリス領から独立して以来、クウェートの領有権を主張してきており、イラクにとって豊富な油田のあるクウェートの併合は経済的にも望まれる物であった。これ以降イラクとクウェートでは油田を巡る国境線の修正問題が頻発していく。1974年にはイラクは2度に渡りクウェートに侵攻するが外相会談によりこれを撤退させる。その後イラン・イラク戦争の勃発でイラクはクウェート国境の軍事力をすべてイラン方面に向け、その間クウェートとの問題は影を潜めていた。しかし戦争終了後の経済的低迷はイラク国内で深刻化した。ペルシャ湾への出口を確保し経済的近代にもサウジアラビアに並ぶ近代アラブ国家を設立したいイラクとサダムフセインにとってクウェートの恵まれた土壌は長年望まれたものであった。 これらの事情により1990年8月遂にイラク軍は大規模な地上部隊を以てクウェート領に侵攻を開始した。湾岸最大の軍事大国と言われるイラクは1万両の機甲車輌と100万の軍隊、さらに精鋭である大統領警護隊20万を所持しており人口200万人のクウェート攻略は容易に果たす事が出来た。イラク占領下のクウェートでは要人の殺害や虐殺、暴行、強盗が繰り広げられた。西側諸国はペルシャ湾岸地区に石油産業を依存しておりこれらの情勢不安は世界各国の経済危機に直面する。日本国では石油の90%をペルシャ湾岸地区に依存しておりこれらの湾岸危機は憂慮すべき事態となっていた。 対して国連はイラクの即時撤退を求める国連決議第660号を採決。8月3日にはアメリカのブッシュ大統領がサウジアラビアの安全確保とクウェートの治安回復を理由にアメリカ軍の派遣を決定。国際社会はイラクに対して非難を浴びせイラクは孤立していく。8月6日にはイラクへの全面禁輸措置がとられ食料、医薬品などがストップする。 これに対してイラク軍はイラク国内に残った西側外国人1万人をイラク国内の軍、石油施設に連行し人間の盾作戦決行を表明。この行為により、イラクよりの立場を示す中東諸国からも見放される結果となった。アメリカ軍は10月までに予備役の招集を完了し20万人の兵士をサウジアラビアに派遣。サウジ防衛と近隣制空権の維持を目的としたデザートシールド(砂漠の盾)作戦を展開。 1991年1月、イラク政府はこれまで盾としてきた外国人の解放を宣言。しかしクウェートからの撤退には応じずこれまでに60万人に達していたアメリカ軍中心の多国籍軍はデザートストーム(砂漠の嵐)作戦を開始。1月17日には夜間飛行能力を持ったアメリカ軍戦闘機部隊及び艦船からの巡航ミサイルが首都バグダッドの他イラク全土の拠点を空爆し全面戦争状態に突入した。 これに対してイラク軍はイスラエルに向けてスカッドミサイルを発射。この戦争の目的を自国の経済、石油問題から中東問題にすり替えイスラム国家の同調を待つ作戦に出た。しかしこれらの行為はアメリカの外交とイスラエルの自制により挫かれ、2月24日には多国籍軍地上部隊がイラク領内に侵攻を開始。100時間に渡る地上戦で圧倒的勝利を収めイラク軍は敗北するに至った。 この戦争に於いてイラク軍はイラン・イラク戦争での戦力的疲弊を繰り返すまいとし、会戦当初から高価な空軍機の殆どを隣国に退避させ、精鋭である大統領警護隊もバグダッド周辺で待機していた。前線での戦闘は徴兵された民兵と僅かな職業軍人で構成された士気の低い部隊が担当し戦車などの車輌も旧式の物が殆どであった。そのため多国籍軍のハイテク兵器の前に脆くも崩れ去り多数の兵士が自ら塹壕を放棄し捕虜となった。これらイラク軍兵士の士気と練度の低さ、貧粗な装備と不足する食糧などの要因が地上戦のスピード決着に結びつく事になった。 ■湾岸戦争経過概略
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